【事業承継4つの形 その3】株式上場とは

基礎知識

事業承継を考える経営者にとって、所有する株式を誰に譲るのかは悩ましい問題です。何もしなければ所有する株式は相続されることになりますが、相続人が経営を引き継ぐ意思があるかはわかりません。

運良く経営を引き継ぐ後継者が決まっていたとしても、資金的な問題で株式の移転に支障をきたす場合もあります。いずれにしろ事業の先行きは不安定なものになってしまうでしょう。

事業承継では経営の後継者への引き継ぎとならんで株式(経営権)の移転が最重要の検討課題となります。経営者の保有する株式の移転先としては、親族や会社の従業員等いわゆる身内と、金融機関等から紹介される特定の第三者がまず思い浮かぶでしょう。

前者に株式を譲り渡すのが社内(親族)承継であり、後者がM&Aによる事業承継といえますが、もう一つ、不特定多数の投資家に株式を引き取ってもらう株式上場という方法があります。

今回は、株式上場が事業承継に悩む非公開企業の経営者にとってなぜ選択肢となりえるのか、そのメリットおよびデメリット、また実現のために特に考慮すべきポイントについて解説します。

事業承継としての株式上場という選択肢

株式上場とは、一般の投資家が参加する株式の取引市場で会社の株式を売買できるようにすることをいいます。「Initial Public Offering」=「初めて一般の投資家から株主を募集すること」という意味でIPOとも呼ばれます。

株式上場はこれまで経営者が所有していた株式を「一般投資家へ売却する」、つまり特定の誰かではなく不特定多数の一般社会へ売却することを意味します。

事業承継では一般的に、現在の経営者から後継者への経営の引き継ぎと、経営者が保有する株式の移転を検討することになりますが、特定の後継者や株式の移転先が見つからない場合、株式上場が事業承継の一つの手段となり得ます。

経営者個人の会社から一般投資家が株式を自由に所有・売買できる公開会社となり、経営を引き継ぐ後継者の選定を含め、事業において取り得る選択肢が大幅に増えるからです。

株式上場とは。その意義

株式上場は本来、会社にとって事業拡大の手段です。証券取引所の上場審査を通過し株式が上場されることで、会社の財務状況や業績、将来の事業運営が一般投資家の投資対象たりうるレベルであると評価を受けたことになります。

結果、会社に対する金融機関からの信用力や世間での知名度等は格段に高まり、資金調達の手段や人材採用の間口が拡がるなど、会社はその後の事業拡大に必要な経営資源を得ることができます。

株式上場では、経営者が保有する株式の全部または一部を、不特定多数の一般投資家に買い取ってもらうことになります。株式を買い受けた投資家、上場会社となって新たに取引を開始した取引先を含め、より多くのステークホルダーが会社の事業と関係を持つことになり、会社の公器としての存在意義が一段と高まるともいえます。

事業承継としての株式上場のメリット

上場会社は法律や証券取引所のルールにより業績開示が求められます。また、その開示する内容は会計監査を受けたものでなければなりません。証券取引所の上場審査や会計監査に対応するため、社内の体制整備も進むことになります。

開示した業績が報道の対象となるなど、上場会社となることで世間の注目を集めることにもなります。事業の透明性の向上や経営管理体制の強化により会社の信用力が格段に高まるのです。

このように株式上場によって、株式発行による資金調達手段が確保できるということだけでなく、高まった信用力が銀行借入等その他の資金調達手段の確保や販売・購買両面における取引の拡大といった事業自体の拡大につながることも期待できるのです。

事業拡大で会社のブランド価値が高まれば、株式上場による知名度の向上とあいまって、経営を引き継ぐ後継者候補を含め多様で幅広い人材の確保も容易になるでしょう。

経営者自らが創業し株式の大部分を保有している会社であれば、株式上場により不特定多数の一般投資家が経営者に取って代わることになります。一般投資家は市場で株式を売買し入れ替わることになりますので、創業経営者だけに頼らない株主構成となり、より安定して存続する会社への道が開けるともいえます。

また、経営者にとっては所有している株式を市場で現金化することができますので、例えば相続人が相続税を支払う場合などにも対応し易くなるメリットもあります。

事業承継としての株式上場のデメリット

株式上場により、会社はより多くのステークホルダー(利害関係者)を事業に巻き込むことになります。当然、経営者の経営責任や会社の社会的責任は重くなります。

また、そもそも株式上場によって事業承継を達成できないおそれもあります。まず、株式上場により多様な人材を確保できたとしても、すぐに適当な後継者が見つかるとは限りません。また、幸いにして後継者が見つかったとしても、その後継者を会社の取締役に選任しなければなりません。

取締役の選任等会社の重要事項は経営者以外の一般株主を含めた株主総会での決議を経て行われますので、経営者の考えどおりに事業承継を進めていくため、経営者が一定の株式(議決権)を保有し続けることもよくあることです。その株式を誰にどのように引き継ぐかは引き続き課題ですし、時間が掛かる場合があることも覚悟しなければなりません。

株式上場自体も簡単に実現することはできません。次章で説明するように、証券取引所それぞれで上場基準が設けられ、基準をクリアできなければ上場の準備を進めたとしても上場することは叶いません。

例えば監査法人による会計監査を上場申請前の2期間にわたり受ける必要があるなど、上場準備には多くの時間とコストを掛ける必要あります。

株式上場の準備・手続き

この章では株式上場に向けた準備とは具体的にはどのようなものか解説します。

上場基準・上場審査

株式を上場し上場会社となるためには、それぞれの証券取引所が設ける上場審査に合格する必要があります。その基準には形式要件と実質審査基準があります。前者では会社が上場までにクリアしなければいけない条件や経営指標が定められています。

例えば、監査法人による会計監査を実施していることや株式事務代行機関を設置していることといった項目、上場後の株式流通を担保する株式数や株主数、企業の財務状況を示す利益や純資産の額等です。

後者は会社が投資家保護の観点から上場会社としての適格性を充たした内容があるかどうかを審査するための基準といえます。安定的に利益を計上することができる合理的な見込みがあるか、内部管理体制が適切に整備、運用されている状況にあるかなどについて、会社が提出する上場申請書類に基づき、証券取引所が質疑応答や実地調査により確認します。

資本政策(分散株式の集約、税務面で考慮すべきポイント等)

資本政策とは会社が事業遂行に必要とする資金をどのように調達するかを計画することをいいますが、特に上場準備においては重要な作業となります。

資本政策では資金調達の観点および経営者の株式保有比率の観点で検討が必要です。資金需要が大きな会社は上場を機に財務体質を強化できるエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)が考えられるでしょう。

また、そのような資金調達や上場に際しての株式売り出しにより経営者の株式保有比率は下がることになりますので、前述のとおり経営者が一定程度の株式の保有を継続する前提で株主構成を慎重に検討する必要があります。

相続対策等で役員、従業員が分散して株主が保有しているような場合には経営者がそれらの株主から株式を買い取ることや、増資を引き受けるなどで株式保有比率を高めておくことが考えられます。

経営者としては今後発生する相続に備え、相続税対策として株式の評価額が低くおさえられる財産保全会社に保有する株式を移転することも検討できるでしょう。

経営管理体制の整備しよう

株式上場にあたって会社は組織として経営を管理する体制を整備する必要があります。すなわち、経営者個人に頼った経営から、会社としての経営管理体制を機能させ、経営の健全性・透明性を確保しながら継続的に成長する会社を目指さなければなりません。

具体的には、取締役会等実効性のある意思決定機関の整備、組織的な運営に必要なルールを明文化した諸規定の整備、コンプライアンス(法令遵守)・財務報告の信頼性確保・業務の効率性向上を目的とする内部統制システム・業務管理体制の整備、安定して利益を生み出すための月次決算や予算管理といった利益管理制度の整備等多岐にわたります。

3年は当たり前。株式上場に係るスケジュール

株式上場までには一般的に準備開始からおおむね3年の期間が必要です。証券取引所の上場審査に向け、上場する会計年度(上場申請期)を基準に、直前々期(二期前)には内部統制の整備と試運用、監査法人による会計監査を主幹事証券会社の助言の下、開始しなければなりません。

上場準備は主幹事証券会社や監査法人等の選定から進めていくことになります。

株式上場に係る費用

株式上場に際して負担が必要になる費用には証券取引所に対して支払う上場審査料や新規上場料、登録免許税など上場時の費用との上場後に継続的に発生する上場料などがあります。

上場準備においてもコンサルティング等専門家への報酬が必要となります。一般的に上場には最低でも5,000万円程度かかるといわれています。

株式上場に関わる専門家

株式上場に向けては社外の多くの専門家との連携が必要になります。

主幹事証券会社、監査法人、その他の専門家

主幹事証券会社とは、株式上場する際に会社の株式を経営者から買受け、一般投資家に販売する作業(引受け)を中心になって行う証券会社であり、会社の上場準備全般を支援してくれる存在です。

株式上場には主幹事証券会社の証券取引所への推薦が必要になります。主幹事証券会社は自らが推薦し、株式を販売した会社に上場後に業績不振や不祥事が発生しないよう上場準備の過程で審査、助言します。

監査法人は財務諸表の監査報告書を作成し、その過程で財務諸表の信頼性を保証する内部統制制度の構築等についてアドバイスを実施します。監査報告書は証券取引所に提出する上場申請書類や財務局に提出する有価証券届出書に必要です。

上場会社は証券取引所のルールにより株式事務代行機関の設置が義務付けられています。株式事務代行機関は株主名簿の管理や株式関連の事務を代行する機関であり、信託銀行や証券代行会社が務めます。

株式上場ではこの他にも多くの専門家の支援を受けます。金融商品取引法等により求められるさまざまな開示資料の作成を支援する証券印刷会社も上場に際して選定が必要になります。

上場後は会社の事業規模は拡大し、関連する制度も複雑になります。会社が直面する問題も上場前とは大きく異なってくるため、弁護士、司法書士、税理士等専門家との関係構築も重要になります。

株式上場準備を自由な形で支援してくれる株式上場コンサルティング会社や、上場前の事業資金を提供してくれるベンチャーキャピタル等の活用も検討項目になります。

まとめ

株式上場により、会社の知名度や信用力、評価を高め、優秀な人材の確保、ひいては望ましい後継体制の構築につながることが期待できます。

また、創業者である経営者は創業者利益を獲得することができます。株式の評価額が高く、税務負担が大きくなるような場合は、相続や贈与を受けた株式を市場で現金化し納税資金に充てることができます。

このように、事業承継を検討する際に問題となる、後継者への経営の引き継ぎと、株式の移転について株式上場は一つの回答となり得るのです。

ただし、株式上場は準備に多大な時間と工数を要し、証券取引所の上場審査対応には知識と経験が求められることになりますので、早い段階から専門家を交え綿密な計画を立てることが望まれます。

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