【事業承継4つの形 その1】M&Aとは

基礎知識

創業した事業を自分の子孫に代々承継するという伝統的な家族経営が当たり前であった昭和の時代から平成を経て、M&Aは、大企業だけではなく、中小企業の経営者にとっても経営上、当然の選択肢の一つとなりました。

最近では、こうした経営者の価値観の変化だけでなく、大企業が優れた技術やノウハウ等を積極的に買収して獲得する傾向にあります。そのため、年間売上高1億円以内のスモールビジネス(小規模事業)を対象とする「スモールM&A」が活況となっています。

M&AはMerger(合併)とAcquisition(買収)の略であり、文字通り、企業が別の企業と合併することや株式譲渡等で事業を譲り渡したり、譲り受けたりする取引をいいます。さらに広い意味では、事業の経営権を取引の対象とせずに、企業が第三者と協力して事業の活性化に取り組むこと、例えば業務提携等も含みます。

実際のM&Aとはどのようなものか(M&Aの種類)

一般的にM&Aと呼ばれる取引形態には以下のようなものがあります。それぞれにおける具体的な内容や採用されるスキーム(手法)は様々です。

M&Aスキーム分類表

分類代表的なスキーム関連するキーワード
経営統合合併(新設合併・吸収合併)、株式移転株式移転は、純粋持株会社を新設し、その株式と既存会社の株式とを交換する形で、当該既存会社を純粋持株会社傘下の子会社にする手法です。
企業(事業)の買収(バイアウト)・売却株式譲渡、株式交換、事業譲渡、会社分割(新設分割・吸収分割)、第三者割当増資上場企業の株式を売買する際はTOB(公開買付)が利用されます。被買収企業の同意がない場合には敵対的買収となります。バイアウトには被買収企業の資産及びキャッシュフローを担保に調達した資金で行うLBO(レバレッジドバイアウト)や、同様の手法で経営陣が企業を買収するMBO(マネジメントバイアウト)や従業員が買収するEBO(エンプロイーバイアウト)等があります。
事業の一部買収・売却同上一般に、株式持分(厳密には議決権割合)の過半数(50%超)を有していれば、経営権を持っているといえます。さらに、3分の2以上(66.7%以上)の株式を有していれば、株主総会で定款変更等、特別決議事項を単独で決定でき、より強固な経営権があるといえます。逆に株式の3分の1超(33.3%超)を持つことにより、特別決議事項に対する拒否権を確保できます。
事業再生・事業救済法的整理、私的整理事業再生を目的とする法的整理には、民事再生法や会社更生法に基づく手続きがあり、スポンサー企業による支援にM&Aが利用されます。私的整理は法的手続きによらず、会社の債権者と債務者の合意によって債権債務を処理する手続きで、同様にスポンサー企業が関与するケースがあります。
資本提携株式持合利益ではなく、投資先との関係強化を目的とする投資を政策投資・リレーションシップ投資といいます。
業務提携開発提携(共同開発)、生産提携、販売提携

M&Aで何を実現するか(M&Aの目的)

売り手にとってM&Aとは?

事業や企業の売り手にとって、M&Aは、創業から一定規模に成長した事業を売却し投資回収を図る創業者利益の獲得や、不採算部門やノンコア事業を売却し、そこで得た資金をコア事業に振り向ける事業の選択と集中、経営が悪化した際に負債を整理した上でスポンサー企業に経営権を預ける企業再生等を実現する手段となります。

また、中小企業においては後継者の不在や能力不足といった人の問題を解決し、廃業を回避する有効な手段として考えられます。

買い手にとってのM&Aとは?

買い手にとってのM&Aは、新規事業を獲得する事業の多角化、既存事業の規模の拡大や自社に不足している技術や人材、商圏などを取り込むことによる弱点の克服、営業効率の向上等を目的に実行されます。

買い手企業の社内で通常の事業運営の中でこのような改善に取り組むことは、多大な時間と労力を要します。M&Aでは既に他社で完成した状態を譲り受けることができ、時間と労力の削減や取り組みの成功可能性を高めることになるため、M&Aの最大のポイントはしばしば、「時間を買うこと」だと表現されます。

M&AでExit(イグジット)

Exit(イグジット)とは、出口という意味で、ベンチャービジネスなどにおいて創業者やベンチャーキャピタル(ベンチャーに投資する投資家)がその事業から離れ、投資回収を図ることをいいます。

Exitの代表的な手段として、株式市場に参加する多くの投資家に対して会社を売却するIPO(株式公開)や一般的には相対で売り手と買い手が合意するM&Aがあります。

IPOでは投資回収の面でより公正な評価が期待できますが、後継者問題を抱える経営者にとっては、次の経営者を確実に選定することができるM&Aが有効な手段として考えられます。

M&Aはこう進める(M&Aの一般的なプロセス)

ここでは対象会社の100%株式を有する創業者(売り手)がその株式持分の全てを、独占的な交渉を経て買い手に売却する前提で、M&Aの一般的なプロセスについて解説します。

項番項目解説
1NDA(秘密保持契約書)の締結売り手と買い手との間で締結する、相手方から得た情報を第三者に開示しないという内容の契約です。
2売り手:対象会社に関する情報の提供買い手:簡易DD(デューデリジェンス)の実施売り手からは対象会社の基礎資料が提供され、買い手はそれに基づきM&Aを実施すべきか、実施するならどのようなスキームが良いか調査、検討を行います。また、この際、バリュエーション(事業評価、取引価格の試算)も行われます。複数の買い手候補者を対象に入札を実施するようなケースでは、売り手が上記のような対象会社の基礎資料を纏めたIM(インフォメーションメモランダム)を候補者に提供することがあります。
3LOI(レターオブインテント)/MOU(メモランダムオブアンダスタンディング)の締結基本合意書と呼ばれる、初期的な交渉を経て、その時点における、基本的な項目(スキームや価格、実施時期等)についての申し合わせ事項、また、その後、最終契約締結に向けたお互いの意思を相互に確認する書面です。必ず作成しなければならない書面ではなく、法的拘束力のない紳士協定であることが一般的です。
4DD(デューデリジェンス)の実施買い手が行う、対象会社についての詳細な調査をいいます。何を調査するかは、対象会社の事業の性質に応じて変わりますが、事業・ビジネス、財務、法務、システム等について実施されます。
5DA(ディフィニティブアグリーメント)の締結最終契約のことを指します。DDの結果を踏まえ、LOI/MOUで合意した内容をベースに売り手と買い手で交渉し、最終的な合意内容を纏めた最終契約を作成します。より有利な対抗提案等により当初の買い手との取引が実現されなかった場合に売り手が当該買い手に対して経済的な補償を行うロックアップ条項や、対象会社にとって事業継続上重要な経営陣が買収後も残留するよう定めるキーマン条項等、M&Aに独特な契約条件について検討されることがあります。
6Closing(クロージング)最終契約の定めに従い、株式や譲渡代金の決済手続きを実施することをいいます。これにより取引成立(完了)となります。
7買い手:PMI(ポストマージャーインテグレーション)の実施株式買収(M&A)後、買い手による、取引で期待した効果、すなわち、買い手と対象会社間のシナジーの発揮や重複するムダの削減等を実現するための作業をいいます。

事業承継、M&Aを選択する際の相談相手

アドバイザー(相談先)の選択肢

このように一口にM&Aといっても、そのスキームは多様で、取引成立までの各ステップで専門的な知識が必要になる場面が多くあります。一企業にとってM&Aを検討したり、取引の対象になることは、日常的にあることではありませんし、創業者がM&AでExitすることは一世一代の大事業と言えるでしょう。

このようなM&Aの取引成立に向け、経営者にアドバイスを提供し、取引全体を管理するのがファイナンシャル・アドバイザー(FA)です。取引の当事者それぞれが別のFAを採用するケースや、一つのFAが売り手、買い手の間に立って仲介するケースなどがあります。

FAの取引に対する関わり方は、案件によって異なりますし、スモールM&AではFAが関与せず当事者だけで進められることもありますが、ニュースに報道されるような事案では、FAが初期的な交渉段階からClosingに至るまでに関与していることが一般的です。

FAのサービスは、銀行や投資銀行(証券会社)等の金融機関やM&Aアドバイザリー専業会社が提供しています。FAは取引価格に応じて、取引の成立を条件に、成功報酬として当事者から手数料を得るケースが一般的です。

金融機関がこのようなサービスを手掛けるようになったのは、M&Aでは買い手企業には大きな資金需要が期待できるためです。また、幅広い取引先を持つ金融機関は、M&Aの相手先候補を見つける際にも力を発揮します。

DDやバリュエーション、契約交渉といった、進める上で高い専門性が要求される各ステップについては、FAに加え、弁護士や会計士、税理士といった専門家が関与するケースもあり、FAと区別して法務アドバイザーや税務アドバイザーと呼ばれることがあります。

FAを付けず、DDだけを会計士に、契約書作成だけを弁護士に依頼するといったようなことも考えられます。専門家の報酬はタイムチャージ(時間当たりの単価を定め作業時間に対して報酬を支払う仕組み)で決定することが一般的です。

この他にも、特にスモールM&Aについては、事業を売りたい人と買いたい人を引き合わせること(マッチング)に特化したM&A仲介サイトも増加していますし、中小企業とは特に関係が深い税理士がFAの役を担い、M&Aをサポートするケースも多くあります。

まずは身近な専門家に相談

社内のリソースだけでM&Aを進められる企業は限られており、むしろFAを始めとした社外に相談先を求めながら進めるのが適切だと言えます。ただ、M&Aによる自社の課題解決に関心があったとしても、誰に相談すれば良いかは悩ましい問題です。

M&Aのアドバイザーを選定するには、検討するM&A取引が、どのような経緯で検討するに至ったか(目的、案件の紹介元、市場環境等)、どのようなスキームを検討しているのか(対象会社を含む当事者の性質、資金調達の必要性等)

・自社が置かれた状況はどうか(社内の検討体制、取引先との関係等)といったことを踏まえて判断する必要があります。

そうなるとM&Aのアドバイザーを選定するのにアドバイザーが必要ということになってしまいそうですが、そのようなときは先ず、金融機関でも、弁護士でも、税理士でも構いません、日頃付き合いのある、最も信頼できる社外の専門家に相談するのが良いでしょう。

M&Aを成功裏に進めるには、FA等の持つM&Aの知識や経験も重要ですが、一番大切なのは当事者のM&Aの目的に掛ける思いであり、社外のアドバイザーはその思いを共有できるかどうかで選ぶべきだからです。

M&Aの実施にあたっては、当事者意識を持った、信頼できる社外の専門家を巻き込み、社内のリソースと合わせて、一致団結して案件に臨むチームを組成しましょう。

まとめ

事業承継において、企業規模に関わらず、M&Aは有力な手段の一つとなっています。M&Aは一度の取引で企業の経営を根本から変えてしまうドラスティックな手法です。

また、M&Aは第三者が関係する交渉事になること、スキームが多岐にわたり、複数のスキーム同士や株式上場(IPO)を組み合わせて実施したりします。案件を推進するためには専門的な知識や経験、多くの時間と労力が必要になります。

M&Aの実施にあたっては早い段階で、案件を一緒に進めてくれる、適切なアドバイザーを得て、十分な体制を組んで案件を進めていくことが重要といえます。

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