買収型起業で成功する!必ず押さえておきたい事業買収の流れとポイントを解説

基礎知識

〜事業を買い取って経営から始める起業のあり方

「買収型起業」という言葉は、ハーバード・ビジネス・スクールでスモールビジネス(小規模事業)の調査、買収および経営について教えている、リチャード S. ルバック教授とロイス・ヨドコフ教授が使った「acquisition entrepreneurship」を和訳したものです。教授らは、既存の事業を買収する方法により経営トップにつくことを「買収型起業」と呼びました。起業家精神と革新的なアイデアでゼロから成功を目指すイメージのあるアメリカにおいても、近年、買収型起業により現にある事業を承継し、その成長、拡大を目指す野心的なリーダーが増加しているといいます(Ruback and Yudkoff, 2017)。国内でも徐々にそのような事例がみられるようになりました。ビジネス環境の変化が速い昨今、何もないところから経営者を目指すより、既に回っている事業を買収し経営することは理に適っているといえます。本稿では、経営者になるための買収型起業の進め方、買収型起業に失敗しないために押さえておくべきポイントを解説します。

(出典:Richard S. Ruback, and Royce Yudkoff (2017), “Buying Your Way into Entrepreneurship”, Harvard Business Review”, https://hbr.org/2017/01/buying-your-way-into-entrepreneurship, accessed on August 24, 2019)

事業買収の流れ

事業買収といってイメージされるのは企業そのものの買収かもしれません。企業買収は一般的には企業の発行する株式に対価を支払って買い取ることをいいます。M&A(企業同士の合併や企業自体の売買など)の典型的な一形態といえます。株式を取得することで、その企業の株主(オーナー)となり、役員を選任することや定款変更など、その企業をコントロールする権利、いわゆる経営権を得ることができます。自らが経営者としてその企業を経営していくことが可能になるわけです。事業買収は既存の回っている事業、つまり活動して収益が上がっている事業が取引対象となります。実際には、株式のほかにも、次のような有形、無形の資産が売買されます。

  • 事業に使用する店舗
  • 製造設備
  • ECサイト
  • 知的財産
  • 取引関係(契約)

など、事業に含まれる対象は多岐に渡ります。

⑴買収案件を探す

売りに出されている事業は不動産のように店頭に貼り出されることはありません。中小企業・小規模事業者が事業を売りたいという情報は、取引のある銀行など金融機関や税理士などの専門家に寄せられます。なぜなら、事業買収の検討対象になっていることが事業の関係者に知られると、従業員の士気や取引関係に悪影響がおよび、事業価値が毀損するおそれがあるからです。

買収案件の情報を得るには、事業を売りたい人と買いたい人を引き合わせるM&A仲介会社のマッチングサイトや、後継者不足に悩む小規模事業者支援として行政が設置する後継候補者の人材バンクなどを活用することが考えられます。サイトやサービスによって、登録している企業の特性、付随する条件、利用にあたっての手数料などは異なります。

⑵相談先の決定

事業の売り情報を得たとしても、買収に向け何から始めればよいか戸惑う方も多いのではないでしょうか。事業買収と一口にいっても、取引形態は多様で、取引成立までの各ステップで会計、税務、法務など専門的な知識が必要になる場面は多くあります。そういった情報を整理し、M&Aの成立に向け当事者にアドバイスを提供するのが、事業の売り情報を保有する、金融機関や専門家、その専門家をネットワークするM&Aアドバイザリー専業会社などです。また、M&A仲介会社や行政機関も同様の役割を果たすことがあります。事業を買収して起業したい場合、これらファイナンシャル・アドバイザー(FA)と呼ばれる機関のいずれかに相談します。FAはM&Aの成立のためには決定的に重要な存在ですので、サービスの範囲はどこまでが、費用はいくらかなど慎重に検討した上で選定します。

⑶買収先への提案

FAから提供される、売り出されている事業の概要や取引条件といった情報を基に買収したい事業を絞り込みます。事業関係者へ情報が漏れないよう、この段階では具体的な社名などが伝えられないことも多いため、限られた情報から希望に合う事業を探すことになります。

FAを経由し売り手にアプローチすることから、実際の取引が動き出します。このやり取りの中で、守秘義務契約を締結した上で売り手からはより具体的で詳細な事業情報が提供されます。お互いに交渉を進めたい相手か確認することとなります。

⑷経営者との面談

売り手とのマッチング後、FAを通じ売り手の経営者または事業責任者との面談が設定されます。これからの交渉で折り合うことが可能かどうかお互いに見極める機会です。売り手からはその事業承継に込めた思いを聞くと同時に、買収したい理由や今後の展開について買い手側の考えを伝えます。また、売り手から提供される事業関連の概要資料をもとに簡易なデューデリジェンス(Due diligence、買収前調査)やバリュエーション(Valuation、事業価値評価)を実施します。売り手側との面談は複数回に及ぶ場合もありますが、そこでは、買収の取引形態や取引価格、買収後の従業員の処遇など、大まかな条件をすり合わせるための最初の交渉機会ともいえます。

⑸基本合意書の締結

買収の条件について売り手と買い手双方の考えがおおよそ合致したら、その内容を書面に落とした基本合意書を作成します。LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれ、大まかな買収の条件に加え、デューデリジェンスや最終契約締結までのスケジュール、買い手に与えられる独占交渉権や両者の守秘義務などについても規定します。買収条件については両者の意向が合致したことを確認するだけで、法的拘束力を持たせないのが一般的であり、買い手としてはその後のデューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な条件を交渉する余地を残しておきます。

⑹デュ-デリジェンスの実施

デューデリジェンスとは、買い手が対象の事業を詳細に調査する手続きです。買い手は事業買収に伴い対象の事業に存在する訴訟のリスクや簿外債務のリスクなどをそのまま引き継いでしまうおそれがあります。財務や法務などの分野について行われるデューデリジェンスは、弁護士や会計士などの専門家に依頼する場合もあり、相当な労力とコストがかかります。買収後の事業運営上、重要な分野を見極め、重点的に調査することも大切になります。

⑺最終契約書の締結

デューデリジェンスで得た情報を踏まえ、最終的な買収の条件を売り手と交渉します。最終的な取引形態や取引価格はもちろん、取引対象となる事業や資産の範囲、買収後の対象事業に関わる取引の扱いや従業員などの処遇、買収後に対象事業に問題が発覚した場合の取扱い、実際の取引実行手続きであるクロージングの内容も議論されます。契約書の締結は、買収後に想定されるリスクを売り手と買い手、どちらが負担するのか詰める作業といえるでしょう。そして、両者が合意した内容をまとめたものが最終契約書と呼ばれます。

⑻クロージング

最終契約書に基づき売り手へ買収代金を支払い、売り手から株式や事業運営に必要な資産の引渡しを受けることをクロージングと呼び、この手続きを経て事業買収が完了します。

⑼PMIの実施

買収型起業においては、事業買収の完了がまさにスタートといえるでしょう。一般にM&A実施後、買い手がそのM&Aで狙った効果を出していくために取り組む活動をPMI(ピーエムアイ、Post Merger Integration)と呼び、M&Aの成否を左右する局面といわれますが、買収型起業の場合でも同様です。買収した事業の特性を踏まえ、事業が成長、拡大するよう経営していくことこそがPMIといえます。

買収型起業で成功するためには?

事業買収の流れを見てきましたが、買収型起業の成功ため押さえておくべきポイントがいくつかあります。

買収先の会社を選ぶ場合は慎重に

当然、どのような企業や事業を買収するかは買収型起業にとって決定的に重要です。買収後は自らが経営者としその事業を経営していくわけですから、自分の得意分野や能力を確認した上で、事業の特性や文化、ヒト・モノ・カネといった経営資源、業界の環境などを慎重に検討し、自分が経営していけるかという観点で選定すべきです。

企業は買収して終わりじゃない!成功させるためには労力がかかることを知ろう

買収した事業が成長、拡大するよう経営していくためには、経営者となった買い手に明確な経営ビジョンとそれに裏付けられた経営計画がなければいけません。また、その計画を実行するための組織、人材、資金などが買収した事業に備わるよう手立てが必要です。経営者の責任と負担の大きさは言わずもがなです。

経営理念や従業員のことを理解する

買収した事業の特性を理解することの重要性は前述のとおりですが、その中でも特にその事業に備わる経営理念や文化、そこに従事する従業員を理解することは大切です。なぜなら、買収0日目においては現に働いている従業員が既存の経営理念に基づき事業を回しており、新しい経営者にとっても経営のよりどころといえるからです。

デューデリジェンスを徹底する

事業運営は見た目以上に複雑で、多面的です。デューデリジェンスはそのような事業に内在するリスクをあぶり出す作業ですが、それが十分でなければ、買収後、買い手は買収価格以上のリスクを負担することになりかねません。デューデリジェンスを徹底するためには、専門家の助けが必要でコストのかかる手続きではありますが、決して軽んじてはいけません。

買収後は効率的な経営を心掛ける

事業買収の対価として買い手が支払った代金は売り手に渡ります。準備した資金を事業自体に使える純粋な起業とは異なり、買収型起業で必要になる成長資金は事業運営から生み出すか、成長を担保に金融機関などから調達する必要があります。効率的な経営により無駄を省いて利益を出すことが、事業の持続的な成長には欠かせません。

買収する際の注意点

ゼロから起業する場合、事業の成長、拡大に合わせ、経営者としても学んでいくことが可能です。買収型起業では、事業買収後ただちにその事業に関する経営資源を自由に利用できる一面、買収直後から経営者として大きなプレッシャーを受け、試される点に特徴があります。買収型起業にチャレンジする場合、自身の得意分野や経営能力など改めて確認すると同時に、経営しようとする事業が自身にあったものかどうか、FAなどの専門家の意見も踏まえて慎重に検討することが重要といえます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました